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【経営理論】アントレプレナーシップと経営理論【理解と実践】

世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。

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今日はアントレプレナーシップと経営理論です。

経営学で台頭するアントレプレナーシップ領域

2016年時点では、世界で約4億7000万人の起業家がいて、1年間に約1億の新しいスタートアップ企業が生まれていると言われている。もはや起業は一過性のブームではなく、世界的な趨勢だ。

ただそんな中、アントレプレナーシップ領域も十分に確立された「固有の理論」が存在しない。同領域を理論的に理解するには、まずは過去に紹介してきた経営理論で十分ということだと理解できる。

アントレプレナーシップとは何か

一般に「スタートアップ」「起業」「ベンチャー」「アントレプレナーシップ」といった言葉は、ほぼ同義に解釈されがちである。しかし学術的にアントレプレナーシップはより広い意味を持ち、スタートアップ、起業、ベンチャーはその一部に過ぎない。

アントレプレナー(entrepreneur)という言葉が初めて提示された時の定義は「不確実性に直面したときに意思決定する人」であるが、その後時を経てアントレプレナーの核心は「新結合を通じて創造的破壊を引き起こす人の総称」に変化した。起業はあくまでもその重要な一手段なのである。

とはいえ、我々が通常イメージする起業活動、「新しい企業を立ち上げること」が同領域の中心であることも、当然ながら事実だ。なので今回はこれを便宜上、スタートアップ・アントレプレナーシップと呼ぶ。

ヒト・コト・カネのマトリックス

スタートアップ・アントレは企業プロセスの全てが対象である。その特徴は安定した成熟企業と比べて変化が激しく、不確実性が高く、そして創業者・創業チームの属人的な要素が、強く深く入り込むことだ。

大企業・中堅企業のビジネス同様、スタートアップ企業でも、ヒト・コト・カネの3要素は欠かせない。

ヒト:創業者、創業チーム・組織

言うまでもなくスタートアップ企業の中心は、創業者である。創業者の引退後もその性格・思想は、会社のビジョン・風土として長く残ることもよく知られる(インプリンティング効果と呼ばれる)。

起業が活発な社会では、自信過剰な起業家が様々な事業を試みるので多くの事業が生まれ、それらが高い確率で失敗する。いわゆる「多産多死」になるのだ。
但し、自信過剰は事業の失敗を招きやすいが、それを乗り越えて生き残った起業家は、自信過剰なまま(というよりは、むしろ自信過剰だからこそ)成功するとも言える。

コト:事業機会

スタートアップ企業に欠かせないのは、言うまでもなく新しい事業機会を見つけることだ。新しい事業機会を見つけなければ、新結合も創造的破壊も起こせない。

カネ:ファイナンス

スタートアップ企業にとって、ファイナンス戦略が重要なことは言うまでもない。
例えばリアル・オプション理論の視点は、スタートアップ企業に示唆も大きいだろう。スタートアップ企業の事業は、潜在性は高いが不確実性も高い。この状況で、不確実性を考慮しない従来のディスカウント・キャッシュフロー法で、事業の将来価値を評価するのは極めて難しい。不確実性を明示的に取り込んだリアル・オプションが、有効たりうるのだ。

筆者の入山氏は今後アントレプレナーシップ領域がさらに拡大すると考えている。なぜならそもそもアントレプレナーシップの本質は「新結合を起こし、創造的破壊を促す」ことだからである。
従って、多国籍企業、政府、NPO、大手企業など、それまで無縁に思われていたプレイヤーにアントレプレナーシップが浸透し、取って変わるようになってきているのだ。未来のアントレプレナーシップは、様々な領域に広がるのである。

新時代のアントレプレナーシップ領域

少なくとも以下の4つの新しいアントレプレナーシップ領域が顕在化しつつある。

①インターナショナル・アントレプレナーシップ(国際アントレ:多国籍企業に浸透)

多国籍企業・グローバル経営の領域に、急速にアントレプレナーシップ現象が入り込んでいる。

従来の多国籍企業は、まず国内市場で成功し、経験と能力を蓄積した上で、徐々に海外進出するものだった。しかし現在では、創業間もないスタートアップ企業が新結合を起こし、その創造的破壊の力がグローバルに展開しやすくなっているため、急速に多国籍化する現象が世界中で起こっている。

その背景は世界的なICTの発展にある。ICTの発展は取引費用を下げる。すなわち、強いコア資源さえ内部化しておけば、小さなスタートアップ企業でも国境をまたいで活動できるのだ。従って取引費用理論の視点が有用だ。

②ソーシャル・アントレプレナーシップ(社会アントレ:従来のNPOを代替する)

大きなムーブメントになっているのが、社会アントレだ。いわゆる、社会的・公共的な目的を優先して設立されたスタートアップ企業がそれにあたる。
社会アントレ領域の研究でよく使われる理論は社会学ディシプリンのソーシャルネットワーク理論だ。

研究によると社会起業家は通常の起業以上にネットワークにおける信頼関係を重視する。彼らの活動は金銭関係以外のモチベーションを重視するので、心理的な信頼関係が欠かせないからだ。
この意味でこの領域を理解するにはソーシャルキャピタル理論やモチベーション理論などが重要になるだろう。

今後もSNSを通じた人と人の繋がりや、地域コミュニティの活性化は進展するだろうから、社会アントレ領域はさらに活性化するはずだ。

③インスティチューショナル・アントレプレナーシップ(制度アントレ:政府機関を代替)

制度アントレは、近年の経営学で特に注目されており、この領域は制度理論に依拠する。
我々の住む世界には様々な社会上の「常識」がある。一見それは当然のように、空気のように我々の社会を規定している。しかし同理論は「社会的な正当性(レジティマシー)を獲得するプレッシャーの中で、様々な組織・ビジネスパーソンの行動様式が同質化(アイソモーフィズム)している結果として、みんなが何となく従っているだけ」と主張した。

そのような社会的な常識を打ち破り、新たな常識(institutional logic)を打ち立て、周囲を巻き込んで社会を動かそうという行動(movement)を起こす人を制度アントレプレナーと呼ぶ。

④イントラプレナーシップ(大企業アントレ:大企業に浸透)

最後に注目したいのが大企業である。
大企業の中で起業家のように振る舞う社員が増えてきたり、企業自体がそういう人材を増やそうとしたりする動きをイントラプレナーシップと呼ぶ。

イントレプレナーシップが注目されてきた理由は、大企業にイノベーションと創造的破壊が求められているからである。一方、多くの大企業でイントラプレナーシップが壁に直面しているのも事実だ。

この背景には日本の大企業の硬直化した仕組みが影響している。「なぜ企業は変化できないのか」の理解は認知心理学ベースの進化理論や、エコロジーベースの進化理論などが役立つ。加えて、知の探索・知の深化、ストラクチャル・ホール理論など、大企業のイノベーションを理解する上で重要な様々な理論が、イントラプレナーシップ活性化を検討する際に有用だろう。

以上のように現代のアントレプレナーシップは、様々な他領域に浸透し始めている。だとすれば、これからの時代にますます重要になるのが、アントレプレナーの育成になる。
現在様々な機関でアントレプレナー教育が実施されているが、それらは果たして正しいのだろうか。もっと大胆に言えば、アントレプレナーは教育できるものなのだろうか。

この点を理解する手がかりとして重要なのが、「事業機会とは何か」と考えることだ。これについては今学者間で意見が真っ二つに割れている。

事業機会は見つけるものか、作り出すものか

その論争とは「事業機会を見つけるものか、作り出すものか」というものだ。

前者を「事業機会の発見型(discovery opportunity)」、後者を「事業機会の創造型(creation opportunity)」と呼ぶ。

発見型を支持する学者の主張は「事業機会は、起業家の存在とは独立していて、何かの外的な環境変化により発生する」と考える。起業家は事業機会を、それが生まれた後で発見するイメージだ。

一方の創造型は、「事業機会とは起業家が行動を起こすことで、起業家によって作られ、後になって認知される」と考える。とにかく様々な試行錯誤・アクションを行って、気がついたらそれがビジネスとなり、後から振り返れば「それが事業機会だった」というわけだ。

どちらの立場を取るかによって「起業家をどう育てられるのか」への示唆が全く異なる。そしてここでも思考の軸になるのは、経営理論である。

まず発見型の場合、大事なのは「周囲のビジネス環境を精緻に分析すること」だ。
例えばSCP,RBVを使って日知ような経営資源を分析したりすることが重要だ。他にもリアル・オプション理論を使った事業評価も有用たりうる。

一方の創造型は「様々な試行錯誤・行動を繰り返し、事業機会が事後的に、徐々に浮かび上がってくる」という立場なので、センスメイキング理論が有用となる。

加えて創造型の思考の軸たりうるのは、知の探索・知の深化理論や感情の理論、トランスフォーメーショナル・リーターシップなどだろう。そして何よりSECIモデルが重要だ。

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