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【経営理論】組織行動・人事と経営理論【理解と実践】

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今日は組織行動・人事と経営理論です。

組織行動と人的資源管理のマトリクス

今回の記事では「組織行動(organization behavior:OB)」と「人的資源管理(人事)(human resource management:HRM)」を取り上げる。

企業内部の人・チームに焦点を当てるOBとHRMはミクロに該当する。戦略とOB&HRMは経営学における2大領域と言える。

まずそれぞれの定義について簡単に説明する。
OB:組織行動は、個人、グループ、組織構造が人々の行動に与える影響について探求し、その知見を組織効力向上のために活用する分野である。

HRM:人的資源管理とは、組織にとって最も価値ある資産である「組織の目的達成のために、個々に、あるいは集団で貢献する人材」を、戦略的に一貫して管理するアプローチのことである。

従来、HRMはOB領域の一分野として扱われることが多かった。しかし近年は並び立つことが多く、欧米主要ビジネススクールでも「OB&HRM」と併記するところも多い。

OB&HRMと理論の関係には、ユニークな点が3点ある。

1.OB&HRM領域は細かい、多くの分野に分化されている。

2.戦略と異なり、OB&HRMは現象分野ごとに独自の理論があることも多い

3.理論がミクロ心理学に集中している

細分化が進むOB&HRMの分野だが、それらは大きく「個人」「チーム」「組織」の3階層に分けられる。

階層1:個人レベル

企業を構成する最小単位は「人」である。従ってOB&HRMでは企業内の個人の行動メカニズムについて、膨大な研究が行われてきた。

過去の記事でも取り上げた理論以外の現象分野5つについて簡単に解説する。

  1. 評価(performance appraisal):評価は人事における重要事項だが、それは評価者の認知バイアスに影響を受ける
  2. 仕事への満足度(job satisfaction):「同じ評価でも、満足できる人もいれば、不満を持つ人もいるのはなぜか」などが探求される
  3. 採用(employee selection):採用者の認知フィルターを通して採用が行われることを前提に、認知バイアスの理論、意思決定の理論などが応用される
  4. 研修(training):研修プログラムの設計には設計者の認知フィルターが影響するし、その内容は履修者のモチベーションに影響を与える
  5. 仕事へのストレス(work stress):人は過剰に働いたり、周囲から理不尽な要求と受けたりするとストレスを感じ、自身のパフォーマンスや職場のムードに影響が出る

このようにOB&HRMの個人レベルの各分野には、さまざまな理論が対応する。従って「一貫して全ての現象分野を貫ける理論」がなかなか存在しない。

しかし唯一理論とは言えないものの、各分野に適用できる視点がある。それは「個人の性格・個性が行動に及ぼす影響」である。

人の性格の分類は以下の5つに集約されている。

  • 外交性(extraversion):積極的、行動的、話し好き、陽気、活動的、楽観的などで特徴付けられる人の特性の総称のこと
  • 神経症(neuroticism):物事をネガティブに捉えやすい特性の総称。この特性の強い人は、恐れ、悲しみ、罪の意識、怒りを持ちやすいことが知られている
  • 開放性(openness):様々な視点、知見、経験などを受け入れやすい人の特性の総称。この特性の強い人は好奇心が強く、感受性が強い。
  • 同調性(agreeableness):他者に対して協力的で、信頼性が高く、紳士的で、他者に優しい特性の総称のこと
  • 誠実性(conscientiousness):自分の行動に対してきちんとした方向性を持ち、それに向けて懸命に働く特性の総称。これが強い人は慎重で、思慮深く、自己抑制が利いている。

心理学者による数十年に及ぶ統計解析の蓄積により、ビッグ・ファイブは人の性格を大括りに分ける信頼性が高い基準として学者のコンセンサスになっている。

階層2:チームレベル

個人レベルで取り扱った態度や意思決定はチームでも分析対象となる。加えて、チームレベルには以下のような分野がある。

  • チームワーク(teamwork):効果的なチームワークには様々な要素が絡み合うので、複数の理論が応用される。
  • パワーとポリティクス(power and politics):人が複数集まると、力関係が生じ、「社内政治」が行われる。
  • 交渉と摩擦(negotiation and conflict):チームにおける人と人の交渉はOB&HRMの重要イシューだ。この説明には感情の理論や認知バイアスの理論、意思決定の理論が主に用いられる。

階層3:組織レベル

組織全体レベルの分野には大きく以下の2つがある。

組織文化:組織全体の持つ風土のこと

組織変化:風土をいかに変えていくか

両分野とも包括的なので、多様な理論が応用される。なかでもよく応用されるのは、リーダーシップや認知、感情に関する理論だろう。

OB&HRMの未来像

このようにOB&HRMは分野ごとに独自の理論が形成されがちであり、また大部分がミクロ心理学に集中している。
ただ、この状況はこれから大きな転換を迎えるはずと予想されており、特にHRM(人事)は大きく変わっていくだろう。

①イノベーション理論との融合

第一にHRMがイノベーション領域と融合していくことは間違いない。企業が生き延びるには人材を戦略的に育て、戦略的に配置し、戦略的に管理しなければならない。

著名コンサルタントもハーバード・ビジネス・レビューに「これからの企業はCHROをCFO,CEOと並べた三頭体制を築き、三者は頻繁に会合を持つべきだ」と寄稿している。

従って人事施策もイノベーション前提でなくてはならないのだ。イノベーションが求められる時代では、売却部門の人材が「他社で通用しないスキル」しか持ち合わせていないなら、当然ながら売却に抵抗するだろう。
一方、「どこに行っても通用するスキル」を磨けている人材なら、売却も受け入れやすくなる。

欧米のグローバル企業には「自社以外のどこに行っても通用する人材育成」を徹底させていることも大きい。

そして今後日本のリーダー育成で大切になってくるのは「横並び人事の廃止、エリート・プログラムの積極的導入」だ。
抜擢された幹部候補者ほどマインドフルネスでも触れた修羅場経験を得られる。

従ってこれからの人材育成では、マクロ心理学の視点をHRMに取り込み、ミクロ心理学の理論と組み合わせることが重要となる。
例えば「知の探索理論」と「リーダーシップ理論」には補完性が期待できる。

そしてモチベーション理論では、ゴール設定を高めるのに必要なのは、自己効力感(self-efficacy)だった。自己効力感を従業員に持たせれば、それが恒常的なサーチを促せるはずだ。

マクロとミクロの心理学を補完させることが、イノベーション人材・組織の施策のための思考の軸となる。

②ビッグデータとAIの浸透

第2の未来像はHRMへのビッグデータ分析や人工知能(AI)技術の浸透だ。
その先端を行くのはGoogleだ。自社データによる圧倒的なデータドリブンの採用法である。

同社は社内の人材を全てデータ分析し、同社にとっての”優秀な人材”の特性を把握している。
結果、例えば「アイビーリーグを平凡な成績で卒業した人より、州立大学をトップで卒業した人の方がGoogleで高いパフォーマンスを発揮する」などがわかっていて、それを採用基準に設けている。

他にも同社は「採用における最適な面接回数」「面接の質問内容」「女性社員活躍を推進する方法」「働き方改革の必要性とその効果測定の方法」「採用施策の評価」「優秀な社員の定着率上昇策」「中間管理職の貢献度の計測方法」「高齢化への対応方法」など、全てデータ解析により決めている。

③経済学との重層化

今後人事・組織にICTが浸透していくことは、HRMの経営理論の拡張をも促すだろう。

実は経済学でも学者が独自に人事の研究を大量に行なっており、経済学理論と厳密な経済計量手法に基づいた知見が蓄積されてきている。ただ、残念ながら経営学のHRMの研究者と経済学の人事研究者には、いまだにアカデミックな交流が少ない。

しかし今後はICTにより人事の様々なデータが可視化される。結果、経済学者と心理学者が同時に使える生の人事データが充実してくるはずだ。それは両者の垣根を越える契機になるだろう。

④社会学との重層化

加えて期待できるのが社会学ディシプリン理論との重層化である。特に期待できるのはソーシャルネットワーク理論だ。

企業とは人と人のネットワークの集合体であり、従って企業内の人のパフォーマンス、モチベーション、感情、職場の雰囲気などは、社内の人間関係・ネットワーク構造に多大に影響を受けているはずだ。

今後はIoTやセンサー技術の進歩により、社内の人と人の交流データが大量に蓄積されるだろう。今後はいよいよHRMと社会学の理論が交差する時代が来る可能性は高い。

⑤ミクロ心理学理論の質的変化

今後、AIとビッグデータの浸透が、我々の仕事のあり方を変えることはほぼ間違いない。

重要なのは「人間にできてAIにできないことは何か」を理解することだ。例えばAIは問いに答えることはできても問いを立てるができない。そうであれば人間にはこれからますます問いを立てる能力が求められることになる。

リーダーシップも同様だ。AIは大量のデータを使って、定型化した未来に対しての意思決定はできる。管理型のリーダーならAIでもなれるかもしれない。

しかしAIは全く見通しの立たない不定形な世界でリーダーシップを発揮することはできない。従って今後HRMで重要になるのは、そのような状況でもリーダーシップを発揮し得る人の能力を育成することになるはずだ。

不定形な世界で必要なのは、周囲に(主観的で良いから)ビジョンを示し、啓蒙するリーダーなのだから。

今後はまず、イノベーションの重要性が高まる中で、今後はマクロ心理学とミクロ心理学の融合が始まる。さらに、ビッグデータやAIの人事への浸透は、ミクロ心理学と経済学、そして社会学との重層化も促す。

人事の世界はこれからさらに広がりを見せ、複雑に、そして面白くなっていくのだ。

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