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【経営理論】レッドクイーン理論【理解と実践】

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今日はレッドクイーン理論です。

『鏡の国のアリス』から来た理論

もしあなたが本当に他の場所へ行きたいなら、あなたは今より2倍速く走らなくてはならないのです!

『鏡の国のアリス』

レッドクイーン理論(red queen theory)は企業の「共進化メカニズム」を解き明かす。
ポイントはそれが果たして「望ましい進化なのか」であり、本理論は日本企業が陥ってきた「共進化の罠」のメカニズムを明快に提示する。

前章で取り上げた共進化メカニズムは「生態系変化を他生態系が取り込むことで多様性(variation)などの幅を広げ、両生態系が共に進化する」というものだった。

実は共進化にはもう1つのパターンがある。それは「生存競争による共進化」だ。

キツネとウサギはなぜ足が速くなり続けるのか

例えばキツネがウサギを捕食するために追いかけているシーンを想像して欲しい。

キツネはウサギを捕食するために必死で追いかける。するとウサギも生き延びるために必死で逃げる。キツネもウサギに追いつかないと餓死してしまうから必死で追いかける。
この時、ウサギの足がキツネより遅いと全滅してしまう。だがキツネより足の速いウサギが進化して誕生すると、ウサギはキツネから逃れ生き延びることができる様になる。

するとキツネは餓死寸前になってしまうが、やがて足の速いキツネが進化して誕生するのでウサギを再び捕食できる様になる。
これがしばらくすると今度はウサギの中から、、、、

といった流れでキツネとウサギは生存競争の結果として、共進化して足がどんどん速くなるのである。
つまり人・生物はただ全力で走っても競争相手も全力で走っているから、相対的に「現状維持」にすぎないのである。相手よりも速く走りたいなら「進化」しなければならないが、それは競争相手の進化も促す。
互いに生き残りを賭けて競っている限り、共進化の循環は永久に止まらないのである。

企業間の生存競争が共進化をもたらす

生物進化の「レッドクイーン」と「経営学」の違いは、後者はエコロジーに組織学習の視点を取り込んだことにある。

特にレッドクイーンで重要なのは、組織学習の基本メカニズムだ。
基本概念の一つである「サーチ」を行うと、人・組織は認知の幅を広げることができて、徐々に様々な選択肢を知りうる。結果、より望ましい選択肢に基づいた新しい行動が起こせる。すなわち、進化するのだ。
「企業が自身の認知の範囲に囚われず、新しい知見を学ぼうとする行動」を広義にサーチと捉えてもらいたい。

サーチを行えば行うほど人・組織は進化するので、パフォーマンス・業績が高まりやすく、業績が高くなれば満足度(satisfaction)も高くなる。
しかし問題は人・組織は満足度が高くなると、サーチを行わなくなる傾向があることだ。

「進化して業績を上げるためのサーチは、逆に業績が上がると行われなくなり、かえって進化が停滞する」
この矛盾が学習プロセスの本質にはある。

しかしこれに欠けていた視点がある。それが「競争」だ。
例えば企業Aがサーチをすれば、ライバルの業績を低下させる可能性が高い。すると企業Bの満足度は下がり、企業Bは積極的にサーチ行動に取り組むことになる。
結果、今度は企業Bが新製品の投入やサービス改善に取り組み、進化するのだ。
すると今度は企業Aの業績が下がるので、その満足度も低下する。そしてサーチを再開し、今度は企業Aが進化する。

上述のキツネとウサギの共進化と同様に∞ループ状の循環構造になる。結果、企業A・Bの両者が「共に永久に進化し続ける」のだ。これがレッドクイーン理論の基本メカニズムである。

アメリカの研究者が1900年から1993年の全米地銀データに基づく統計解析をしたところ、「ライバルと直近で激しい競争をしている銀行ほど、その後の生存競争が高まる」という結果を得た。
つまり企業はライバルとの競争が激しいほど、自身を進化させること(サーチ)を怠らないので、結果として生き延びやすくなるということだ。

そしてここにレッドクイーン理論は新たな視座を提供する。それは「企業間の競争こそ、進化の源泉の一つである」という視座だ。

切磋琢磨が進化を促す

言うまでもなく、ビジネスには競争が付き物だ。過去に紹介したSCPRBVゲーム理論などは企業間競争の理論だ。
だがSCPを筆頭に、それらの理論では「企業は競争を避けるべきもの」として扱ってきた。古典的な経済学では、競争は避ければ避けるほど望ましいのだ。

一方でレッドクイーンの基本理論が主張するのは、その逆の可能性である。
「競争の中に身を置くことこそが、企業が成功する可能性を高めるかもしれない」という視点だ。

古典的な経済学ベースのSCPは「静的(static)」な理論であり、進化が前提となっていない。一方でレッドクイーン理論は自社も他社も進化しうることが前提となっている(動的(dinamic)な理論)。
つまりレッドクイーン理論は「切磋琢磨を説明する経営理論」なのだ。

日本では生産性が伸びている企業の上位を製造業が占めているが、レッドクイーン理論の視点で言えば、日本の製造業が国際的に激しい競争にさらされる中で、絶えず進化を続けてきた証左に他ならない。
一方、サービス業は規制により参入障壁が高く、製造業ほどには国際競争にさらされにくいSCP理論から見れば望ましい状況である。しかし同時にこれはレッドクイーン効果を弱め、進化を停滞させるということでもある。

いいことずくめに見えるレッドクイーン理論だが、近年改良が進んだ結果「競争を通じての共進化がもたらすリスク」面の方をむしろ強調する新レッドクイーン理論が登場した。

切磋琢磨がガラパゴス化を生む

アメリカ研究者は「ある領域におけるレッドクイーンによる進化は、その企業が他領域に進出した際には、むしろそこでの足かせになる」可能性を主張した。

それは「激しい競争にさらされすぎるとやがて競争そのものが自己目的化してしまい、競合相手だけをベンチマークするようになる。結果として別の競争環境で生存できる力を失う」のである。

冒頭のキツネとウサギの例なら、両者に重要なのは相手との生存競争に勝つことだ。結果、「いかに相手より速く走るか」だけが両者の目的になる。
しかし逆に言えば、両者が「速く走る」以外の進化目的を無視することにつながる。
結果、足は速くなっても、環境が変わってワシが空から襲ってきた時には全く対応できないことになる。

先の企業A・Bの競争の例にすると、両者は特定領域でレッドクイーン競争にあったため「いかに相手を上回るか」が進化の主目的だった。
結果、例えば企業Aはライバル企業と同じ要素における「スペック」だけを向上させる「知の深化型」の進化を実現するようになる。

お互いがお互いを強烈に意識するあまり両者「知の深化型」の進化を実現し続ける循環プロセスに陥る結果、両者の製品・サービスは似通った物になり、様々な細かいスペックの機能性だけで争う「知の深化型の共進化」のスパイラルに陥ってしまうのだ。これが新レッドクイーン理論である。

結果、レッドクイーン競争をする企業は大きな環境変化に見舞われた時、対応力が失われているからそこで生き残れなくなる。コンピテンシー・トラップ(競争力の罠)に陥るのだ。
この新レッドクイーン理論は、日本企業がいわゆる「ガラパゴス競争」に陥ってきたメカニズムを明快に説明するのだ。

「日本メーカーは特定領域で切磋琢磨してきたからこそ強かったのであり、しかしそれは逆に環境が一変すると敗北の最大の要因になる」というのが新レッドクイーン理論の示唆である。

レッドクイーン理論はチェンバレン型競争の罠を説明する

1.古典的経済学に基づく「静的な」SCPでは、「競争を避ける」ことが望ましいと主張されてきた

2.一方、進化を重視する「動的な」レッドクイーンの基本理論は、「ある領域の競争を通じてライバルと切磋琢磨することが進化を促し、その領域における生存確率を高める」と主張した

3.新レッドクイーン理論では「ライバルとのレッドクイーン競争は、当該領域では進化しても大きな環境変化にはむしろ対応できなくなる」可能性を主張している

新レッドクイーン理論が描くのは「日本の製造業は競争力がある」と言われてきたチェンバレン型の競争環境(=ある程度の数の企業が、業界内で切磋琢磨する)に近い。
*競争環境についてはこちらの記事を参照して下さい

もしこの競争環境がシュンペーター型に移行すると、先に述べたメカニズムで、チェンバレン型でこれまで企業が経験してきた進化も、むしろ足かせになる可能性が高いということだ。

ではこれまでチェンバレン型のレッドクイーン競争をしてきた企業が、今後大きな変化に対応するには何をすれば良いのだろうか。
それは「ライバルとの競争を目指さない」ことだ。

大変化時代における、本当の「競争相手」は誰か

過度に競合相手を意識してベンチマークすれば、「知の深化型の共進化」のスパイラルしか引き起こさない。「あえて競合相手を見ない」ことこそが、シュンペーター型の変化を目指すこれからの経営者に求められているのだ。

では、イノベーターたちは競争ではなく、その代わりに何を目標にしているのか。言い換えれば彼らの「真の競争相手」は誰か。
それは「自身のビジョン」だ。競争すべきはライバル企業ではなく、自分のビジョンなのである。

「競争が良くない」「企業は競争を意識すべきではない」と言っているのではない。ポイントは「競争環境が今後どのようになるかで異なる」ということだ。
ただこれからの時代は、多くの業界でさらに環境変化が激化し、シュンペーター型に移っていく可能性が高い。環境が大きく変化するほど、企業の目的は「競争」になってはならないのだ。

この意味で、新レッドクイーン理論は『鏡の国のアリス』の赤い女王をはるかに超えた視点を提供する。アリスは相手より2倍速く走ることを目指すべきではない。アリスは、空を飛ぶことを考えるべきなのだ。

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