経営

【経営理論】エコロジーベースの進化理論【理解と実践】

世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。

世界標準の経営理論/入山章栄【合計3000円以上で送料無料】
価格:3190円(税込、送料無料) (2020/5/18時点)楽天で購入

今日はエコロジーベースの進化理論です。

変化に関する4つの類型

前回の組織エコロジー理論が、産業・業界など企業の固有群(population)の動的変化というマクロ視点を持ったのに対し、進化理論は企業内部の変化という「ミクロ」に焦点を当てる。
例えば「組織はなぜ変化しにくいのか」「それでもあえて変化を起こすには」といった組織内部のメカニズムをひも解くのがエコロジーベースの進化理論である。

エコロジーベースの進化理論は生態学の「多様化と競争による自然淘汰」のアナロジーが原点にある。この理論の基礎となるのはVSRSメカニズムVariation(多様化),Selection(選択),Retention(維持),Struggle(苦闘)」のプロセスだ。

VSRSメカニズム

世界の社会学ディシプリンの経営学社でVSRSを知らないものはいない。その意味を生態学のアナロジーで解説する。

1.Variation(多様化)

生態系に様々な生物種が生まれること。
生物が一度持って生まれたDNA塩基配列は、生涯変わることはない。変化は交配によって生物が生まれる時にのみ生じると考える。

2.Selection(選択)

ダーウィニズムの自然選択・自然淘汰プロセス。
生物界では多様な種が生まれるが、自然環境にフィットしない生物種は淘汰され、フィットしたものが環境に選ばれて生き残る。

3.Retention(維持)

特定環境にDNAがフィットした生物は生存競争を勝ち抜き、子孫を残す。

4.Struggle(苦闘)

環境が変化していくと、固有種の持つ特性が環境にフィットしなくなる。
生物のDNAは生まれた後では変えられないから、以前は環境にフィットしていた生物も、環境が変化すると遺伝子が対応できずに淘汰されていく。

このVSRSの視点を、経営学社は産業・企業のダイナミックな変化プロセスに応用した。

まず「マクロ」の視点でみれば、VSRSは「組織エコロジー理論」そのものだ。
組織エコロジー理論とは長期の産業ダイナミズムの中で、どのような固有特性(DNA)を持った企業(生物種)が生き残れるかを解き明かす理論だった。

この理論には「企業には固有の特性があり、それは大きく変化しない」という前提があり、実際にアメリカでは社齢40歳を迎える企業は全体の0.1%に過ぎない。
しかし逆に言えば環境変化に適応して変化し、生き延びる企業も0.1%は存在するということである。

この様に変化が可能な企業組織と生物の根本的な違いは何か。
生物学では「生物それぞれが固有の最小単位」であるのに対し、ビジネスでは「企業組織が最小単位ではない」という点だ。
1つの企業組織には多様なリソースがあり、その違いや組み合わせが企業の個性を形作る。すなわち企業では、その内部の人材・情報に対してもVSRSメカニズムが働く、と考えるのである。

企業内人材のVSRSメカニズム

一般に人材の多様化の程度が高いのは、いわゆる創業初期メンバーとなる創業から数年の間である。
創業から成長するに従いメンバーを追加するが、前回の記事で述べた通り、創業数年は社会レジティマシー(正当性・信用)が弱いので人材確保は容易ではない。
従って創業初期は様々な経験・知見・価値観を持った人材が寄せ集められることが多く、結果として多様性が生まれる(=Variation)
しかし同時に人材は企業内部で選抜のプレッシャーも受ける(=Selection)

創業初期の選抜の基準は大きく2つある。
1つが周辺環境からのプレッシャーだ。創業初期の企業は正当性を得られず、顧客・取引先・資金の獲得に苦労するというハンディキャップがある。従って企業が成長するにつれ、秀でた才能・スキルを持った人材や既に成功した経験を持つ経営者を取締役に迎えるなど、社会正当性を獲得するための人材が選抜されていく。
そして次の基準がホモフィリー(homophily)である。ホモフィリーとは「生物は、本質的に同じ特性のものがつながる性質がある」ということだ。

例えば同じ鳥科のサギでも、アオサギ、シロサギ、ダイサギなど様々な種類がある。そしてシロサギはシロサギ、アオサギはアオサギ、ダイサギはダイサギ同士で集まり、他の種類と交わることは滅多にない。

人にも存在するホモフィリー

経営学や社会学では「人は、そもそも本質的に同じタイプの人を好み、同じ人と繋がりやすい傾向がある」という主張が長く支持されてきた。人もホモフィリーの傾向があるということだ。

このホモフィリーが企業の採用にも大きく影響する。
創業初期メンバーの人材セレクションに関する研究では、創業メンバーがチームを組む時には、以下の5つのメカニズムが働くことが示された。

①その人の役割・能力を重視して人を選ぶ
②ステータスのある人を選びたがる
③人脈を活用して選ぶ
④地域的に近い人を選ぶ
⑤ホモフィリー効果

そして統計的に最も強い効果が示されたのは⑤ホモフィリー効果だった。ホモフィリーによる人材選択は、創業初期段階で多様性が高すぎる企業内の足並みを揃え、会社のオペレーションを落ち着かせ、社会正当性を獲得する上では、不可欠のプロセスと言える。

しかし難しいのは、ホモフィリー基準の人材選択をそのまま放置すると、それが企業に埋め込まれてしまう点だ。結果、時間が経過するにつれ、極度に組織の同質化が進むことがある。

企業内戦略形成のVSRSメカニズム

次に企業内の情報処理プロセスにおけるVSRSが、企業の戦略形成に与える影響について解説する。

企業が情報戦略・事業計画を立てるためには、企業内外から得られた情報が重要であることは間違いない。従って戦略形成は企業内で“どの程度多様な情報が得られ、選別され、維持されるか”に大きく左右される。
そしてこれをアメリカの学者が1983年の論文で戦略形成に必要な情報処理プロセスを理論化している。

①情報は人材からもたらされるので、多様な人材がいる企業は多様な知見が集まる

②企業がこれまでにない行動を取れば、その経験からも新たな情報が入る

結果、企業内情報の多様性を高められる。そしてこれらの情報は、、、

③経営陣など意思決定層に届く過程で選別・淘汰されていく

④情報選別プロセスでは、組織内ルール・組織構造が決定的な役割を果たす

このような組織構造・規定は固定的である。その結果、社内の情報選別プロセスを通じて、毎回同じ様な情報だけが経営陣に届きがちとなり、似た様な情報に基づいた戦略形成は、固定化されたものになりやすくなる。

このメカニズム、ロジックをもとに研究者からは「戦略は組織に従う(strategy follows structure)」と主張した。一般に有名なのは逆の「組織は戦略に従う(structure follows strategy)」だが、現実の組織内ではVSRSメカニズムが働くので研究者の主張通りとなるのだ。

ただ、ここで大胆な事業転換に成功したインテルの例を紹介したい。
インテルは1968年に創業したが、当初の主力はメモリー(DRAM)であり、1970年代半ばには同社の収入の8割を占めた。
しかしその後、日本メーカーの台頭でDRAM事業が苦戦すると、情報収集と精査をもとにプロセッサー事業へ大胆に移行し、10年後の1980年代半ばにはプロセッサー事業の収入が8割を占めるようになった。

なぜインテルは10年間でこれほどまで大胆な事業転換ができたのか。この理由を研究者は「同社では、とにかく最善の情報・提案を全社員が自由に戦わせる雰囲気があり、それが最善の戦略を生み出す情報選択のプロセスの土壌となったから」と述べる。

実際、当時のインテルには現場の若手社員でもCEOと直接対話して、提案できる機会があったようだ。しかし興味深いのはその後である。

1990年代以降のインテル内部は情報プロセスが硬直化し、社内の情報選択がプロセッサー事業を基準にしただけのものになってしまい、結果、その後の新規事業開発に失敗してしまう。

企業は生まれた瞬間から進化が起こせなくなる

以前紹介した認知心理学ベースの進化理論とエコロジーベースの進化理論の帰結はよく似ている。それは「企業とは生まれた瞬間から硬直化が始まり、やがて変化・進化が起こせなくなる」ということだ。

一方で両理論には違いもある。それは、エコロジーベースの進化理論の方が「それでも変わりたい企業は何をすべきか」という問いに、より明確な示唆を与えてくれるのではないかということだ。企業内の人・情報のリソースの組み合わせや流れを変えれば企業は変えられる可能性がある。

ただ、そのために必要なのは、まず組織内の多様性を高めることだ。
VSRSメカニズムが示唆するのは多様な人材を集めてその人たちが多様な情報を集めても、それが社内の硬直化した情報選択プロセスにかかっては、意味がないからだ。すなわち、ダイバーシティはあくまで起点にすぎず、それを活かすには”開かれた情報の選択プロセス”が不可欠なのだ。

「企業は成長につれ硬直化が進む本質がある」ことは間違いないことと言える。しかしインテルの例が示すように、企業が単体で自身を変えるには限界があるのかもしれない。
その点、VSRSの視点から興味深い視点が生まれつつある。
それはco-evolution(共進化)「他の生態系のダイナミズムを活用することが、企業内部の進化につながる」という主張だ。

共進化のVSRSメカニズム

「関連する企業・業界・ステークホルダーなどが進化すれば、それを受けて自身も進化し、さらに自身の進化が他企業や関連業界の進化を促す」
これが共進化の主張であり、進化の循環をダイナミックに生成できた業界・企業が飛躍するという考え方だ。

各企業が他の生態系のダイナミズムを取り入れることで、互いに企業も生態系も進化しうるというのが共進化の主張だ。

他の生態系のダイナミズムを取り込め

日本の人材・知見の生態系を超えた移動は「一方通行」であることが多い。シリコンバレーにいく人材・日本企業は増えたが、逆にシリコンバレーの人材・企業は日本に還流していない。

AI技術も同様で、日本の機械メーカーはこぞってAI人材を採用しているが、逆に機械メーカーからAI分野に人はそれほど流れていない。

企業が単体では進化しにくいことは、本章のVSRSメカニズムからも明らかだ。重要なのは、時に人材を他の生態系に手放し、還流させ、複数の生態系が共に進化することなのではないだろうか。

\面白いと思ったら/

記事のシェア & Twitter のフォロー をお願いします!

@proglearn
一緒によく読まれている記事

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です