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【経営理論】組織エコロジー理論【理解と実践】

世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。

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今日は組織エコロジー理論です。

生物学を応用する経営理論

組織エコロジー理論のエコロジー(ecology)とは生態学のことであり、生態学とは生物と環境の間の相互作用を研究する分野のことである。

今回紹介する組織エコロジー理論(organizational ecology)は、生態学の中でも主に個体群生態学(population ecology)を応用する。

組織エコロジー理論の前提

現在の同分野は大きく8つの派生分野に分かれ、その中には様々な派生理論がある。その組織エコロジー全体で共有している前提は以下の3点となる。

  • 企業の本質は変化しない
  • 自然選択のメカニズム
  • 超長期視点
企業の本質は変化しない

組織エコロジー理論では「一度生まれた企業はある程度その形が形成されると、生涯その本質は大きく変化しない」と考える。

企業が変化できない理由は2点
1.内部要因
認知心理学の「限定された合理性(bounded rationality)
人・組織は認知に限界があるので、環境が変化しても自身はそれに対応する大きな変化ができない。この硬直性をイナーシアと呼ぶ。

2.外部要因
レジティマシー(正当性)効果が挙げられる。
一度社会に馴染んでしまった企業は、その仕事のやり方・組織体制・事業内容などが取引先・投資先から「正当」とされてしまうので、なかなか変更できない。

自然選択のメカニズム

組織が大きく変化しにくいのに、なぜ世の中にはこれほど多様な企業があるのだろうか?
組織エコロジーではそれを「企業が変化するからではなく、多様な企業が生まれるから」と説明する。

ダーウィンは「生物は生まれる時にランダムに遺伝変異が起こる」と主張した。従って遺伝の突然変異により、多様な生物が生まれる。これを多様化(variation)という。

多様な生物はDNAを変化させることができないので、外部環境に適応できる遺伝子を持つものだけが生き残り、対応できなかったものは「選択・淘汰」される。これが自然選択(natural selection)の法則である。

組織エコロジー理論も同様に「突然変異で業界に多様な企業が生まれ、環境に適応できる個性をもった企業だけが生き残り、適応できない企業は淘汰される」と考える。
このメカニズムを生き残り(retention)という。

以上の「多様化(variation)→自然環境による淘汰・選択(selection)→生き残り(retention)」の流れを、それぞれの頭文字をとってVSRメカニズムという。

超長期視点

組織エコロジー理論は極めて長期的な視点を取る。
代表的な論文に掲載されたグラフではアメリカ新聞業界1800年〜1975年のデータや、アメリカビール醸造所業界355年間のデータなど、極めて長期の視点が取られている。

以上の3点の前提に立ち、組織エコロジーでは様々な派生的な知見・理論が発展してきた。
その中から代表的な3つを解説する。

派生1:密度依存(density dependence)理論

個体群生態学では「生育領域内の個体数、つまり個体群の『密度』は、ある程度一定に保たれる」と考えられている。

特定の生育領域内には、許容できる個体数の限界(carrying capacity)があり、個体数が多くなるとエサ・棲み家などの資源が不足し、個体数増加にブレーキがかかるからだ。これを密度効果(density effect)と呼ぶ。

密度依存理論は2つのメカニズムに基づいている。

1つはレジティマシー(正当性)効果である。
代表的な事例に19世紀のアメリカ新聞業界が挙げられる。
19世紀半ばに一般大衆向けのペニー・ペーパーという新聞が出回り始めると、新聞が市民権(=レジティマシー)を獲得し始め、それに合わせて多くの起業家が新聞業界に参入するようになった。

フランシスコ周辺地域では1820年代に刊行されていた新聞はほぼ皆無で、1860年頃でも50程度だった。それがピーク時の1916年には395まで急増した。
レジティマシーの浸透に合わせて一気に企業の誕生率が上昇したということだ。

さらにレジティマシーの確立は新聞社の死亡率も押し下げている。
新聞がレジティマシーを獲得することで資金調達が容易になり、新聞を読む習慣が常識となったため、各社が顧客数を伸ばしていったからだ。
結果、19世紀後半の新聞の廃刊率は低くなった。

しかし20世紀前半のピークを過ぎると、アメリカ新聞市場の飽和感は極限に達し、密度効果が顕在する。
新聞業界には限界以上に企業があるとプレーヤーが気づき、顧客・資金・取引先などの限られた資源を獲得する競争が激しくなった。
結果、今度は廃刊率が急上昇し、業界に参入する企業もいないので誕生率も大きく低下した。

このように1つの業界が生まれ、やがて成熟・斜陽化していく過程は組織エコロジーの密度依存理論で説明できるのだ。

求められるのは時間軸への意識

密度依存理論の実務への示唆は「長期に業界の時間軸を見ることの大切さ」である。

どんなに優れた製品・サービスを持つスタートアップでも、レジティマシーを獲得できなければ長く苦戦が続き、死亡率は高いままとなる。
逆にレジティマシーを獲得すれば死亡率はさがり、そこから爆発的な成長さえ見込めるかもしれない。

例えば料理レシピサイトのクックパッドはその好例である。
クックパッドは2000年代後半に、通信手段がPCからスマートフォンに移行したことで、急速にレジティマシーを獲得した。
インターネット黎明期に誕生したクックパッドは創業が早すぎたと言えるかもしれない。ただ、同社はそこから10年持ち堪えたことで、結果、スマートフォン時代が到来し、レジティマシーの獲得・爆発的な利用者の伸びを得ることができたのだ。

逆に業界の個体数が最大になった頃にようやく業界に参入するのは遅過ぎると言える。密度依存理論が示すように一度個体数がピークを越えれば、あとは資源獲得競争に突入して死亡率は急激に上昇する。

近年のクックパッドが国内で苦戦を強いられているのは、動画レシピサービスへの乗り遅れを指摘する声がある。
このように密度依存理論は、いま自分が参入したい業界が「どの時期にいるか」を見極める重要性を示唆する。

「流行っているから」と言って密度が高い業界・ビジネスに参入する企業は、激しい資源獲得競争と高い死亡確立を覚悟しなければならないということだ。
反対に、業界・ビジネスがまだレジティマシーを獲得していないなら、その時が来るまで耐え抜く覚悟が必要となる。

派生2:年齢依存(age dependence)仮説

組織エコロジーでは、長きにわたって「新しさの重荷(liability of newness)」という仮説が検証されてきた。
これは「企業は幼い方・若い方が死にやすい」という主張だ。

この理由も先のレジティマシーの獲得にある。
生物が生き残るための条件の1つは、周囲との社会性を高めることだ。企業の場合、レジティマシー獲得に必要なのは再生可能性(reproducibility)と説明責任・透明性(accountability)である。

様々な顧客に安定して同質の製品・サービスが提供できるからこそ、社会に受け入れてもらえる。従ってレジティマシーの獲得には組織のルーティン化が欠かせない。

組織の安定化は組織情報の外部への開示が可能(=説明責任・透明性の向上)となるので、結果、外部プレーヤーが企業を信頼するようになり、投資・融資・取引が行いやすくなるのだ。

一般に創業仕立ての若い企業ほど、再生産可能性と説明責任の仕組みができていない。日々の仕事に手一杯であり、オペレーションを安定させて体制を整えることは二の次となる。

しかしそれは結果としてレジティマシーを乏しいままにさせ、投資家・銀行・顧客・取引先などの社会からのサポートを引き出しにくくし、死亡率が高まるのだ。これが新しさの重荷仮説だ。

しかし1990年代にさらに実証研究が進められると「むしろ年老いた企業の方が、環境変化に対応できず死滅する可能性が高い」という「長寿の重荷(liability of aging)仮説」なども主張され始めた。

どちらが正しいか決着はついていないが、両者の違いを分けるのは「環境変化のスピード」の影響と考えている。
新しさの重荷仮説を逆に言えば「企業は年をとるほど(レジティマシーが高まるのでサポートを受けやすく)死亡率を下げられる」ことになる。

しかしそのためには企業周囲の環境変化が緩やかであることが欠かせない。先述のように組織エコロジーには「組織の変化は、環境変化より遅い」という前提があるが、それは「環境変化のスピードが遅いほど、企業はその変化に追いつきやすく、死亡確率は低くなる」ということでもある。

一方で長寿の重荷仮説が主張するように、長寿企業はルーティン化が極度に進みがちで、一旦環境が大きく変化しだすとその勢いに耐えられない。

派生3:捕食範囲の理論(niche-width dynamics)

ここで重要になるのがスペシャリストとゼネラリストの違いだ。

生態学上、100種類以上の草を食べるバッタや肉ならなんでも食べるライオンはゼネラリストで、アブラナ科の植物しか食べないモンシロチョウやアリしか食べないアリクイやユーカリの葉しか食べないコアラはスペシャリストだ。

これを企業に当てはめて「ゼネラリストとスペシャリストのどちらが環境にフィットするか」という自然選択メカニズムをもとに企業の死亡率を分析する分野をフィットネス・セット理論(fitness set theory)という。
さらにフィットネス・セット理論を発展させたのが資源分割理論(resource parititioning theory)である。

研究者は資源分割理論で「生物の棲み分け」をビジネスに応用し、多くの顧客を相手にするマス市場と特定の顧客だけに絞るニッチ市場の死亡率を研究した。

結果、「業界内でゼネラリスト企業間の競合度が高まるほど、その業界にいるスペシャリスト企業の死亡率が低下する」という仮説を支持する結果を得ている。

棲み分けの視点は「新しい業界にゼネラリストとして参入するか、スペシャリストとして参入するか」という問いに示唆を与える。

ここまで様々な組織エコロジーの視点を紹介してきたが、同理論には「実務的な示唆が見出しにくい」との批判もある。

この理論は「企業の運命は環境という生態系に制約・規定されており、抗うことは難しい」という前提があるからだ。

メガトレンドを持って、生態系を渡り歩け

現代の日本企業が抱える課題の1つは「自社の所属する業界が古く、成熟してしまった」ことのはずで、多くの日本の業界は既に斜陽ゾーンに突入している。

実はここまでの議論には「生物(企業)は1つの生態系に、終生留まる」という暗黙の前提があった。生物では確かにそうかもしれないが、企業は違う。

企業はあくまでも事業を乗せた器でしかないので、斜陽ゾーンに突入した時に次の生態系に移る手段があるのだ。

ここで考えるべきポイントは2点
1つが「次の生態系に移る際は、あくまでも黎明期の業界に移動する」ことだ。次に「これまでのルーティン(DNA)が活かしやすい生態系に移動する」ことである。

欧米企業では長く生きながらえているシーメンス、IBMなどは高いROEを維持しながらも、事業ポートフォリオは驚くほど入れ替わっている。しかし日本の企業はできていない。
日本の企業にはメガトレンドの視点が足りていないのだ。メガトレンドは先に挙げた欧米グローバル企業の多くではもはや常識になっている。経営陣がメガトレンドを真剣に議論し、これを全員が腹落ちするまで徹底共有する必要がある。

メガトレンドの視点を持つ企業は「これからレジティマシーを獲得するであろう事業領域」に早めに投資でき、斜陽ゾーンに差し掛かっている事業は資源獲得競争に勝ち抜ける自信がない限り事業売却してしまうのだ。

差し掛かったばかりのタイミングで売却すれば高値がつき、新たな領域への投資に使える。

今グローバルで勝ち続けている大手欧米企業ほど、メガトレンドに基づいて各業界の生態系の動向を見越しているのだ。

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