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【経営理論】エンベデッドネス理論(埋め込み理論)【理解と実践】

世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。

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今日はエンベデッドネス理論についてまとめます。

科学化が進むソーシャルネットワーク研究

ソーシャルネットワーク研究は近年急速に発展しているが、その背景には「人と人(組織と組織)のネットワークがこの世の様々な事象を説明しうる」と明らかにされたことがある。
加えて、IT化・グローバル化の促進により、世界が近く・小さくなったことも大きい。SNSの台頭が代表例として挙げられる。

ソーシャルネットワーク理論は時代を超えて「なぜ繋がりが重要か」「どのような時に重要か」「自分を高めてくれる人脈のあり方」といった感覚的な質問に思考の軸を与えてくれる。

その基盤となるのがエンベデッドネス理論である。

社会学から経済学への2つの批判

まずエンベデッドネス理論の前提となるエコノミック・ソシオロジーについて説明する。

エコノミック・ソシオロジー(economic sociology)とは社会学の視点を経済・ビジネスの分析に応用することの総称として使われ始めた。この分野の研究者たちが共有している経済学への批判は主に以下の2点である。

1.ビジネス活動における人と人のつながりの捨象
2.意思決定メカニズムの一様化

1.ビジネス活動における人と人のつながりの捨象

古典的経済学では「市場メカニズムを媒介として、無数の企業と無数の消費者が瞬時にモノやカネを取引し、市場が均衡する」と考えていた。

ただこれはビジネスの現実とはかけ離れた描写である。
なぜなら現実的にゼロからビジネスを始めた人がいきなり他国の企業や消費者と取引をするのは不可能だからだ。

例えば日本で野菜を作ってロシアで売ろうとしたら、元々ロシアと取引をしている業者に連絡したり、現地に赴いて販社を開いたりするはずだ。
つまり古典的経済学の仮定とはかけ離れており、地道に築いた「人脈・ネットワーク」から少しずつビジネスが生まれ、広がっていくのだ。

2.意思決定メカニズムの一様化

古典的な経済学では「人は合理的に、数学を解くように、自身の利得が最大になるように意思決定する」と仮定してきた。
だが、人は常にそのような意思決定をするのだろうか?
エンベデッドネス理論はそう考えていない。

エンベデッドネス(embeddedness)理論

エンベデッドネス(embeddedness)は「埋め込み・根付き」という意味である。そのため日本では「埋め込み理論」という訳語が使われることも多い。

エンベデッドネス理論の基本主張

人は他者とのつながりのネットワークに埋め込まれており、その範囲内でビジネスを行い、従ってその関係性に影響を受ける

同理論の基本単位は「つながり(tie)」であり、ビジネス上の人と人のつながりは、以下の3つのレベルに分けることができる。

1.アームス・レングスなつながり(arm’s length tie)
2.埋め込まれたつながり(embedded tie)
3.ヒエラルキー上のつながり(hierarchy)

「つながり(tie)」の3つのレベル

上の図にある通り、「アームス・レスリングなつながり」と「ヒエラルキー上のつながり」は両極にある。この両者は経済学的な視点から語られることが多い。

一方、中間に位置するのが「埋め込まれたつながり」である。
エコノミック・ソシオロジーは「経済学は、この中間の埋め込まれたつながりを軽視してきた」と主張している。

1.アームス・レングスなつながり(arm’s length tie)

経済学が想定する市場取引に近い関係で、「よそよそしい」という意味がある。初めてビジネス取引をするような浅い関係をイメージして欲しい。

ここでの人・組織は「合理的で(rational)」「計算的で(calculative)」「利己的(self-interest)」な意思決定をしがちである。

3.ヒエラルキー上のつながり(hierarchy)

企業内での制度的な上下関係などを指す。部下が合理的で自己利益を重視するなら、上司の見えないところで仕事をサボる可能性がある。

2.埋め込まれたつながり(embedded tie)

上の2つの中間が埋め込まれたつながりである。
すでに何度かビジネスを一緒に経験したり、場合によっては苦楽までも共にしたような「深く、それなりに強い関係」だ。

エンベデッドネス理論は「この埋め込まれたつながりで、人は他の2種類のつながりとは異なるメカニズムで意思決定するようになる」と考える。

まず、このようなつながりでは人は「合理性よりもヒューリスティックな意思決定に頼る」ようになる。
埋め込まれたつながりでは信頼(trust)が生まれてくるのだ。

ヒューリスティック

経験に基づく直感・その場の瞬間的な判断

結果、時に自身より相手の利得を優先したり、相手にもそのような利他性を期待したりするようになる。この相互依存関係をレシプロシティ(reciprocity)と呼ぶ。

エンベデッドネス理論は経済学を根底から否定しているのではなく、人が合理性・利己性に基づいた意思決定をする状況は、現実には限られていると主張しているのだ。

「埋め込まれたつながり」の法則

エンベデッドネス理論はソーシャルネットワーク研究の基本であり、なかでも代表的なもの5つを紹介する。

法則1:関係性の埋め込み(relational embeddedness)

人は一度つながった相手と繰り返しつながり、その関係性が安定化していく傾向がある。

法則2:構造的な埋め込み(structual embeddedness)

人は「つながっている相手が、そのさきでさらにつながっている他者」とつながりやすい。

例えばAさんを中心にBさんとCさんがいるとする。BさんとCさんの直接の面識がなくても、Aさんを足掛かりにして両者がつながる可能性は高い。

この特性をネットワーク推移性(network transitivity)といい、ABCの三者からなる三角形を構造的な埋め込みという。

法則3:位置的な埋め込み(positional embeddedness)

より多くの人とつながっている人ほど、情報獲得・発信の面で有利となる。

他者よりも多くのつながりを持つことは、ネットワークの中心的なポジションにいるのと同義なのでネットワーク中心性(network centrality)という。

ネットワーク中心性の高い人は、情報の受信・発信の両面で有利になる。

法則4:埋め込まれたつながりでは、人は意思決定のスピードが早くなる。

埋め込まれたつながりにある両者は互いをよく知っているので、意思決定のスピードが速くなる。

法則5:埋め込まれたつながりは、アームス・レングスのつながりより「私的情報」を交換しやすくなる。

埋め込まれたつながりでは、人は信頼を醸成できるので私的情報が交換しやすくなり、アドバース・セレクションが軽減されるのだ。

日本はつながりの宝庫である

日本経済はこれまで企業・人脈レベルで、様々なつながりを育んできた。そのため海外の経済学・社会学のエンベデッドネス理論に関する研究で、日本企業を題材にしたものは多い。

アメリカの研究者が日本企業を「三菱の金曜会」「三井の二木会」などの社長会に参加する企業と、その他の独立系企業に分類して、属性と各社のROAの間に、以下の相関があると見出した。

  • 結果1:社長会に属している企業は、独立系企業よりも平均して利益率が低い。
  • 結果2:社長会に属している企業が業績を悪化させると、翌年の回復幅は独立的企業よりも大きい。

特に結果2が興味深く、業績好調な企業から不調な企業への便益がもたらされている可能性を示唆する。まさにレシプロシティ(相互依存関係)である。

そもそも日本はエンベデッドネス理論が示す「埋め込まれたつながり」が豊かで、日本企業は長らくその恩恵を受けてきた。
ただ、21世紀に入ってからの新時代のつながりもまた、エンベデッドネス理論で説明できることが研究で示されつつあるのだ。

新しい時代の「つながり」も本質は変わらない

新時代のソーシャルネットワークについて、3つの側面を取り上げる。

1.インターネット上のつながり
2.超国家コミュニティ
3.企業内外のつながり

1.インターネット上のつながり

まずはインターネット上のつながりの急拡大である。SNSが圧倒的に普及してきた。

アメリカの研究者が「友達がどのくらいメッセージに反応するかは、従来のエンベデッドネス理論が提示する法則と整合性が高い」ことを明らかにした。

つまり
「『同じ大学に通っていた』などの埋め込まれたつながりにいる友人からのメッセージに対して、反応度が高くなる」
「共通のFacebook友達を持つ人からのメッセージほど、反応度が高くなる」
などである。

前者はヒューリスティックのメカニズムで説明できるし、後者は「法則2:ネットワーク推移性」そのものである。

2.超国家コミュニティ

国境を超えた人的ネットワークのことである。

1970年代頃からアメリカに大量の優秀な人材が、移民・留学生として流入してきた。
彼らは学位取得後、現地企業に勤めたり、企業したりして、アメリカ内で人脈を築いてきた。

そして近年になり、そのような人材が母国にも拠点を置き、両国を足繁く往復するようになっている。

その結果、国境を超えた人的なつながりのネットワークが生まれ、それが各国のスタートアップ企業、IT企業、バイオ産業などの隆盛につながっているのである。
これを超国家コミュニティ(transnational community)と呼ぶ。

この超国家コミュニティがビジネスでは本当に重要だがネット上だけでは伝わりにくい私的情報を伝播させている。

3.企業内外のつながり

そもそも企業とは埋め込まれたつながりの集合体でもある。企業を「人のネットワークの集合体」として捉える視点をネットワーク組織(network organization)という。

従来の日本企業は境界内でつながりをつくるものの、境界を超えてつながりを築くことには消極的だった。
なので企業の境界とネットワーク組織の境界が、ほぼ同義だったのだ。

しかしこの状況はようやく日本でも変わりつつある。

企業の存在は薄れ、ネットワークというアクターが台頭する

ロート製薬は2016年に副業を解禁した。
その狙いの一つは「会社の枠を超えて培った技能や人脈を持ち帰ってもらい、ロート自身のダイバーシティを深める」ことにある。

この趨勢は、今後我々に「企業とは何か」という根本的な疑問を突きつけることになる。経済学の取引費用理論なら、企業の境界が明確だった。

しかしこれからの時代は様々な人が、企業の境界を超えて往来し、人脈を作り、情報交換していくようになる。そうなると企業の存在意義そのものが薄れていく。

そして台頭するのは埋め込まれた人と人のつながりのネットワークとなる。

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