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【経営理論】センスメイキング理論【理解と実践】

世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。

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今日はセンスメイキング理論についてまとめます。

いま求められている理論=センスメイキング

センスメイキング理論

簡潔にいえば腹落ちの理論

組織のメンバーや周囲のステークホルダーが、事象の意味について納得(腹落ち)し、それを集約させるプロセスを捉える理論

筆者(入山 章栄氏)は「現在の日本大手・中堅企業に最もかけており、最も必要なのがセンスメイキングである」と考えており、その理由は以下の2点だ。

1.「見通しの難しい、変化の激しい世界で、組織がどのように柔軟に意思決定し、新しいものを生み出していけるか」に多大な示唆を与える

2.今まで紹介してきたイノベーション」「組織学習」「ダイナミック・ケイパビリティ」「組織の知識創造理論」「リーダーシップ」「意思決定といった様々なテーマに違った角度から光を当てる

センスメイキング理論を学ぶには哲学的視点の理解が重要となるので、まずは哲学的な背景の説明から進める

現実は一つか

物事の認識の仕方には「実証主義」「相対主義」2つの立場が存在する。

実証主義(positivism)

「この世には絶対的な真理・真実がある」と考える立場

主体(自分)と客体(周辺の環境)は分離しており、主体は客体を正確に観察・分析することで、その真理・真実を知り、それを他者と共有できる

実証主義の立場だと本ブログで紹介してきた理論の主張は「全ての人にとって同じ」ということになる。

相対主義(relativism)

「物の見方・認識は、主体と客体の相互依存関係の上で成立する」と考える立場

主体は客体と切り離せず、むしろ周囲の客体全てに囲まれた一部と言える。主体と周囲の客体は互いに働きかけあい、依存し合う。
その結果、人はその認識上のフィルターを通じてしか物事を認識できない。

相対主義の立場だと本ブログで紹介してきた理論の主張は「読者の見方、認識、気分、立場などによって異なって受け取られる」ということになる。

実証主義・相対主義の組織論への応用

ビジネスで活用すると「主体=自社の組織」「客体=自社を取り巻く全てのビジネス環境」となる。

実証主義の立場を取る場合

・組織・経営者に重要なこと:事象を正確に観察して、精緻に分析すること

「自分が今直面しているビジネス環境は、周囲の誰にも同じように見える。従って、事業環境を正確に分析すれば、普遍的な真理・真実が得られる」と考えられるから。

相対主義の立場を取る場合

誰もが共有する絶対的なビジネス環境の真理は無い

主体は客体の一部と考えるので、自分自身が行動して客体(環境)に働きかければ、環境認識も変化する。

ここで重要なことは実証主義・相対主義どちらが正しいかではない。どちらの立場を取るかで、根源的な物事の見方が異なることだ。

そして今回のセンスメイキングは相対主義に近い立場を取る。

センスメイキングの全体像

センスメイキングの全体像

センスメイキングの全体像は、ダイナミックに循環するプロセスとして捉えられる。

プロセスは3つ「①環境の感知(scanning)」「②解釈・意味付け(interpretation)」「③行動・行為(enactment)」に分けられる。

各プロセスの説明に入る前に前提を押さえておく。
センスメイキングは「新しかったり(novel)」「予期しなかったり(unexpected)」「混乱的だったり(confusing)」「先行きが見通しにくい(uncertain)」環境下で重要になる。

そしてそのような環境を以下の3つに分類できる。

危機的な状況(crisis)

市場の大幅な低迷、ライバル企業の攻勢、急速な技術変化、天変地異、企業スキャンダルなどに直面した時

アイデンティティへの脅威(threat to identity)

急激な業界環境の変化によって、自社の事業・強みが陳腐化して、自社のアイデンティティが揺らいでいる状況

意図的な変化(intended change)

企業が意図的に戦略転換を行うときにも、それが今までに行ったことのない新しいものなら、センスメイキングが重要となる。

プロセス1:環境の感知

ここで重要なことは上述の3つの環境のいずれか、又は、複数にいるか感知することだ。

いま日本企業が直面しているのは3つ全ての環境であり、今後さらに深刻化する可能性が高い。
そのため筆者(入山 章栄氏)はセンスメイキング理論の理解が日本企業には重要だと考えている。

日本企業は急速な事業環境の変化に見舞われつつある(=crisis)ので、企業自身が意図的に変化し、イノベーションを創出しなければ生き残ることはできない。(=intended change)
しかし「そもそもこの会社の存在意義は何か」が揺らいでいるので、自社の大きな方向性に腹落ちがなく、結果として変化できない企業が多い(=threat to identity)

プロセス2:解釈を揃える

このプロセスで重要なことは、多義性(equivocality)である。
同じ環境でも感知された周囲の環境をどう解釈(interpret)するかで、その意味合いは人によって異なる。だから、この世は多義的になる(=意味合いが多様になる)のだ。

センスメイキング理論は「組織の存在意義は、解釈の多義性を減らし、足並みを揃えることにある」と考える。
そのため多義的な解釈の「足並みを揃える」ことは極めて重要だ。
同じ組織に属するからこそ、人々はそこで密なコミュニケーションを取り、事業環境や方向性などについて、解釈を集約できるからだ。

従ってこのプロセスで組織・経営者に求められるのは、多様な解釈から特定のものを選別し(selection)、それを周囲に理解・納得・腹落ち(sensemaking)してもらい、組織全体での解釈の方向性を揃えることなのだ。そのためここで重要なことは納得性(plausibility)である。

急激に変化し、いままでの経験が通用しない、解釈が多義的になる環境では、そもそも正確な分析が不可能である。

だから腹落ちさせて足並みを揃えるためにストーリー性が重要となるのだ。

求めれれるのはストーリーを語り、腹落ちさせられるリーダー

2000年頃から2010年代前半までソニーの業績は全く伸びず、行き詰まっていた。
その間、急激な環境変化の中で創業以来の主力事業が低迷し、金融事業で収益をあげるようになっていた。事業が多岐にわたり、主力が低迷し始めると「ソニーとは何の会社なのか」というアイデンティティが揺らいでいたのだ。

実際その当時ソニーの社員・幹部は「ソニーとは何の会社なのか」という問いに対して、
「ソニーは、(金融・エンタメも含めて)広くイノベーションを追求する会社」
「ソニーは、エレキ(電気機械)の会社でなければならない」
と主張しており、同じ社員でも「ソニーらしさ」についての解釈は異なっていた。

しかし2012年平井一夫氏が社長に就任してからソニーはV字回復を遂げ始める。
平井氏はメディアからの「ソニーは何会社だと思いますか?」という質問に対して、
「一言で言うと『感動会社』だ。エレキ、金融、エンタメそれぞれで消費者に感動をお届けする会社だ」
と回答している。

平井氏就任前のソニーは「ソニーらしさ」が多義的になってしまっていた。そこで平井氏は「感動を届ける」と言うストーリーを語ることで、組織の足並みを揃えてセンスメイキングが進んだのである。

不確実性が高まる現代のビジネス環境下では、腹落ちさせるストーリーを語れるリーダーが必要だ。

プロセス3:イナクトメント

センスメイキング理論では行動が重要になる。なぜなら組織は行動して環境に働きかけることで、環境への認識を変えることができるからだ。

実はセンスメイキング理論では、行動を循環プロセスの出発点として捉えている。
多義的な世界では、「何となくの方向性」でまず行動をおこし、環境に働きかけることで、新しい情報を感知する必要があるのだ。

その「環境に行動を持って働きかけること」をイナクトメント(enactment)と言う。

例えば山登りする人は、登山前に山の状況を理解しようとしても、その時は自分がこれから何を経験するのかわからない。山登りを開始して初めて、遭難しそうになったり、謎の植物を発見したりするのである。
それらの予想外の事態を都度冷静に分析する余裕はなく、必死の行動で山登りを終えてから初めて「あぁ、あれはこういう状況だったんだな。」と納得(センスメイキング)するのだ。
この経験した事象を後になってから理解することをレトロスペクティブ・センスメイキング(retrospective sensemaking)という。

上述の例だと様々な経験をした事態はその人が登山を始め、特定の行動をとったから実現したことだ。イナクトメントしなければ環境は変わらないし、センスメイキングすることはできない。

まずは行動。行動し続けながら状況を少しずつ理解することが、不確実な環境を生き抜くために大切だ。

センスメイキングがあるから危機を乗り越えられる

センスメイキングは不確実性の高い環境に直面した組織に、多大な影響を与える。
そして「センスメイキングの高まった組織ほど、極限の事態でも、それを乗り越えやすくなる」と多くの学者が示している。

例えば以下のハンガリー軍偵察部隊がアルプス山脈の雪山で遭難して、脱出に成功した話はセンスメイキングの効果の理解を助けるだろう。

ハンガリー軍偵察部隊の遭難脱出

ハンガリー軍偵察部隊はアルプス山脈の雪山で猛吹雪に見舞われ遭難した。
彼らは吹雪の中でできることはなく、テントの中で死の恐怖に直面していた。

その時、偶然ある隊員がポケットから地図を見つけた。隊員たちは「この地図があれば帰れる」と、落ち着きを取り戻し下山を決意した。

彼らは猛吹雪の中テントを飛び出し、地図を頼りに大まかな方向を見極めながら進んだ。そして何とか無事に下山することに成功した。

ただ、下山した隊員が持っていた地図を確認した上官は驚いた。なぜなら彼らが頼りにしていた地図はアルプス山脈の地図ではなく、ピレネー山脈の地図だったからだ。

このストーリーで重要なことは「地図の正確性」ではない。隊員たちが地図を発見したことで、「これを頼りに下山すれば生きて帰れる」というストーリーを皆でセンスメイキングできたことだ。

そしてテントを出て吹雪の中の環境でも少しずつイナクトメントし、周囲の環境の情報を感知しながら細かいルートを修正し、危機を脱したのである。

これはビジネスの特に新規事業でも使える。
「まず初めはとにかく行動し、やがて次第に大まかな方向性が見えてきて、さらに形になっていく」からだ。

この考えはSCP理論の対極にあるといえる。SCP理論では精緻な分析をしてから行動を行うからだ。

ただ不確実性の高い事業環境下では重要なことは「まずは行動」なのである。
行動して試行錯誤を重ね、もがいていく間に、やがて納得できるストーリーが出てくる。そしてそのストーリーに腹落ちしながら、さらに前進していくのだ。

最後に重要な示唆を紹介する。
それはセルフ・フルフィリング(self-fulfilling:自己成就)である。

セルフ・フルフィリング:未来は本当に生み出せる

セルフ・フルフィリング

「大まかな意思・方向性を持ち、それを信じて進むことで、客観的に見れば起きえないはずのことを起こす力が、人にはある」というセンスメイキングのもう一つの大きな命題

セルフ・フルフィリングは現実の認知バイアスの一つとして、すでに多くの研究がある。
例えばオイルショック・コロナ禍などで起きたトイレットペーパー不足や、銀行の取り付け騒ぎなどの「実際は全くそんなこと起きていないけど、多くの人が信じて行動をしたから現実化してしまった」問題がセルフ・フルフィリングで説明できる。

いま挙げた例は社会現象だが、これをビジネスに置き換えれば「優れた経営者・リーダーは、組織・周囲のステークホルダーのセンスメイキングを高めれば、周囲を巻き込んで、客観的に見れば起き得ないような事態を、社会現象として起こせる」ということである。

従って多義的な世界でリーダーに求められることは「1.未来へのストーリーを語り」周囲をセンスメイクさせて足並みを揃え「2.まずは行動する」である。

今の日本でセンスメイキング理論が求めるリーダーの条件を満たす経営者の代表格は孫正義氏だろう。

彼は様々な実現困難と思われてきた事業を成し遂げているが、どんな時代でも極めて主観的と思われるストーリー・信念を強く語っている。

ただ、それで不確実性の高い環境を生き抜くにはそれで良いのである。正確性は必要ない。
主観的だからこそストーリーがある、だからこそ多くの人をセンスメイクして、彼らの足並みを揃え、巻き込めるのだから。

やはり未来を生み出すためには、ストーリーで周囲をセンスメイクさせることが必要なのだ。

センスメイキングの7大要素

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