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【経営理論】感情の理論2【理解と実践】

世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。

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今日は感情の理論1の続きについてまとめます。

感情が人・組織に与える複雑な効果

ポジティブな感情が組織にプラスの効果を与える研究結果が多く得られているのは事実だが、
一方でネガティブな感情が組織に重要な役割を果たすという研究成果も少なくない。

ビジネスには様々な側面があり、局面ごとに感情が与える影響は異なるのである。その主要な法則は以下の6つだ。

法則1.ポジティブ感情は、仕事への満足度を高めやすい(job satisfaction)
法則2.ポジティブ感情は、モチベーションを高めやすい
法則3.ポジティブ感情は、他者に協力的な態度(attitude)をとることを促す
法則4.ネガティブ感情は、満足度を下げるのでサーチを促す
法則5.ポジティブ感情は知の探索を促す
法則6.ネガティブ感情は知の深化を促す

法則1.ポジティブ感情は、仕事への満足度を高めやすい(job satisfaction)

一般に、ポジティブな感情・職場のムードは、個人の仕事への満足度を高める傾向がある。逆にネガティブな感情・ムードは、満足度を下げる。

法則2.ポジティブ感情は、モチベーションを高めやすい

カーネギー学派の企業行動理論(BTF)で述べているが、人のモチベーション向上に重要な要素に「高いゴール設定」と「自己効力感」がある。

ポジティブ感情に触れた人ほど自己効力感が高まるという結果が示されており、自己効力感が高まればその人のゴール設定も高くなる。

モチベーションを高めるにはポジティブな感情を持つことが重要なのだ。

法則3.ポジティブ感情は、他者に協力的な態度(attitude)をとることを促す

ポジティブな感情を持つ人は、他者を助けたり、他者から協力を受けやすい。
実際に1994年に発表された研究でも「ポジティブな感情を持つ人の方が、同僚・上司からの仕事上のサポートを受けやすい」という分析結果を発表している。

法則1-3ではポジティブな感情がもたらす好ましい効果を説明したが、感情が人の「認知」に影響を与える局面ではネガティブな感情が重要な役割を果たす可能性がある。

法則4.ネガティブ感情は、満足度を下げるのでサーチを促す

カーネギー学派の企業行動理論(BTF)で述べたように、企業パフォーマンスの向上に欠かせないのはサーチである。

絶えずサーチをすることで認知を広げ、外部の新たな知見を取り込むことが成長に欠かせない。

そして法則1で述べたように、ポジティブな感情は人・組織の満足度を高めてしまう。そのため「組織が現状に満足して気が緩む」状況をもたらしかねない

ネガティブな感情は人・組織の気持ちを引き締める効果があるので、ネガティブ感情で引き締めを行うと組織はサーチ活動を続けることができる。

だから時にリーダーは組織にネガティブな感情をもたらすことも重要なのである。

法則5.ポジティブ感情は知の探索を促す

感情がサーチに与える影響について考える際に重要なのは「知の探索・知の深化」だ。
ここでは一旦、知の探索・知の深化をサーチを2種類に分離したものと考える。

まず今までの研究で、ポジティブな感情は知の探索を促す傾向が認められている。しかしその一方で、ポジティブな感情は満足度を高めて組織の雰囲気を緩めてしまう。
もし組織がその「緩み」を乗り越えてサーチし続けることができれば、ポジティブ感情の方が「多少は精緻さ・厳密さを欠いても、より大胆で新奇性の高いアイディアを求める」ことを促す。

法則6.ネガティブ感情は知の深化を促す

組織には知の深化も重要だ。そして知の深化はネガティブ感情に触発されやすい。

ネガティブな感情・ムードは「現状に何か問題がある」というシグナルになるので、新奇性の高い行動よりも、現状を正確にミスなく修正・改善する意識を高めることに繋がる。

感情が人・組織に与える複雑な効果

カーネギー学派の企業行動理論(BTF)の組織意思決定の循環プロセスを基に話を進める。

まず法則2だが、アスピレーション(目標・目線)を高めるにはポジティブな感情が効果的だ。

ポジティブ感情は自己効力感を高め、その人の目線をあげることにつながる。もし部下のパフォーマンスが低い時でも、リーダーが部下にポジティブに接すれば、部下も自信を取り戻してアスピレーションをあげられる。

ただ問題はポジティブ感情は同時に満足度も高めてしまうということだ。仮にリーダーがポジティブにだけ接していれば、その部下は現状に満足してしまってサーチが滞ることになる。

従って、満足度が高すぎて「組織が緩んでいる」時は、ネガティブ感情を取り込んで危機感を高め、サーチを促すことも必要なのだ。

では逆にネガティブ感情だけを強化し続けるとどうなるのか。
法則6の通り、知の深化を促すことになるが、知の探索を放棄することになる。

やはり知の探索を促すにはポジティブな感情が必要不可欠なので、満足感を高めすぎてしまうことに注意しつつ、組織のムードをコントロールする必要があるのだ。

これまでの話を踏まえ筆者から2つの示唆が提示されている。

示唆1.組織に求められる感情は、成長ステージや組織が置かれた状況で大きく異なる可能性

例えばスタートアップ企業は日々厳しい生存競争に晒されているので、現状に満足することはあり得ない。言われなくても自然にサーチし続けるだろう。
従ってネガティブ感情で満足度を引き下げる必要はない。

逆にそれらの企業はすぐ淘汰される危険性があるので、常に目線をあげて新しいことにチャレンジする必要がある。
そのため「知の探索」「高いアスピレーション」を保つ必要があり、法則2,法則5のようにポジティブ感情を組織に行き渡らせることが重要なはずだ。

一方、大企業は従業員が現状満足した状況にあるので、そもそもサーチがされない。
なので経営者は法則4の通り、ある程度ネガティブな感情を使って組織の気を引き締めることが重要なのだ。

示唆2.ポジティブとネガティブのバランス

例えば大企業では社員が満足しきっているからといって、経営者が怒ってばかりいたら法則6の通り社員は萎縮して知の深化だけに傾いてしまう。
そして法則2の逆効果でモチベーションも下がり続ける。

ネガティブ感情で気を引き締めつつも、ポジティブな感情でチャレンジを促す必要があるのだ。

実際にファーストリテイリングの柳井 正氏は以下のように感情のバランスについて語っている。
「僕が真剣にアドバイスすると、受け取る方は『叱られている』と錯覚する(笑)。その人のことを思ってアドバイスしているんだけど、相手は心を閉ざしていて、拒否してしまうんだよね。だから相手が心を閉さないように、明るく楽しくやらないといけない。それは経営者の役割です。」

以上の通り、感情が組織に与える影響経路は複雑だ。
ただ近年の研究で「人・組織の感情はある程度まで人為的にマネージできる可能性がある」と明らかになっている。
だからこそそのメカニズムを思考の軸として理解しておく必要がある。

感情ディスプレーを巧みに操れ

感情制御(emotional regulation):人・組織が人為的に感情を調整すること。現代の組織心理学の重要研究テーマの1つ

近年は特に「エモーショナル・インテリジェンス(EI):感情をうまく取り扱える個人の総合能力」という言葉が注目されている。

EIは以下の4つの構成要素からなる。
・perceiving:自信や他者の感情にきちんと注意を払えているか
・using:特定の感情が認知にどのような影響を与えるかを把握できているか
・understanding:感情が時間とともに変化するなどの仕組みを理解できているか
・managing:感情をうまく制御できるか

これまでの研究でEIスコアが高い従業員の方が様々な側面でパフォーマンスが高いという結果が示されている。

そんなEI分野の中でも特に学術的に研究の進んでいる視点が感情表現(emotional display)である。

感情表現(emotional display)

感情の特徴は非言語手段により伝達される側面が大きいことにある。
非言語手段を通じて感情を他者に表現(ディスプレー)した時の効果について、経営学で研究が進んでいる。

感情表現の代表例が笑顔だ。
顧客・部下・職場にポジティブな感情伝播させるために笑顔を増やすことの効果について、多くの研究結果が上がっている。

例えば2001年に銀行員220人と顧客のペアに対して質問票調査を元に統計分析を行ったところ、
「銀行員が笑顔・アイコンタクトを通じて顧客に接するほど、顧客はその行員にポジティブな感情をもち、顧客サービスの満足度も高まる傾向がある」
と明らかになった。

このように笑顔という非言語表現が組織にプラスの影響をもたらすのは疑いない。
しかし意図的に笑顔を作ることに懐疑的な主張があることも事実だ。

その理由は以下の2つだ
・意図的な感情ディスプレーは相手に意図的だと見抜かれてしまう可能性があること
・ポジティブな感情表現は職場の雰囲気など「他者へのプラス」になるかもしれないが、必ずしも「自分へのプラス」にはならない

意図的な感情ディスプレーは心理負担を生じさせるため、極端なケースでは無理に笑顔を作りすぎた人が鬱状態になる可能性も指摘されている。

そこでいま注目されているのが感情労働理論である。

感情労働理論

「本当に効果的で自分が燃え尽きないように顧客・職場・従業員に感情を伝えるために必要なことは何なのか」を研究した理論

感情表現の理論:感情労働理論

スポーツ・コーチや上司の中にはわざと強く怒る人もいる。誰もが仕事上の理由で、それぞれが感情ディスプレーを行っているのである。

感情労働理論(emotional labor theory)は「サーフェス・アクティング(surface acting)」「ディープ・アクティング(deep acting)」の2つに感情を分けて捉えるのが特徴である。

「サーフェス・アクティング(surface acting)」
「外にディスプレーする表情」と「自分の本心」にギャップを持ったまま、感情表現することを指す。

「ディープ・アクティング(deep acting)」
「まず自分の意識・注意・視点の方向を変化させることで、感情そのものを自分が表現したい方向に変化させてから、それに合わせて自然に感情表現する」ことを指す

感情労働理論の例:キャビンアテンダントのクレーム対応

[事象]
ある乗客が機内サービスに一見理不尽な理由で怒って、CAに文句をつけてきた

[CAがとった行為]
顧客の態度をどう捉えるかの認知的な視点をずらすこと

[具体的な行動]
クレーマーが「初めて飛行機に乗る人」であることに気付き、それを強く意識した。
結果としてクレーマーに対する感情を「戸惑い」「嫌悪」から「同情」へ変化させることができた。

[結果]
CAはその乗客に心から同情する感情表現をとって事態に対処し、乗客の不満も解消することができた

認知を動かし、感情を動かす

ディープ・アクティング

「この事態は、別の角度からはこう解釈できるのではないか」などと、考え・視点を意識的にずらすことで自分の感情を変化させること

ディープ・アクティングはサーフェス・アクティングより有利な点が2つある。

有利な点1.ディープ・アクティングは当事者の心理負担が軽い
本心から表情を作っているのだから、心理負担は小さい

有利な点2.ディープ・アクティングは効果が周囲へ波及しやすい
ディープ・アクティングでポジティブ感情を表現する人は周囲から高く評価されやすく、
サーフェス・アクティングでポジティブ表現する人は周囲からむしろ低く評価される。

ディープ・アクティングは感情を変える出発点が認知の側にあるので、日頃の仕事から「多角的な視点」「広い視点」「他者視点」を持つことの重要性を示している。

「相手の立場に立つ」「多角的な角度で物事をみる」といった視点・認知を広げることを日頃から意識すれば、
感情をうまくマネジメントすることにつながり得る。

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