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【経営理論】ダイナミック・ケイパビリティ理論①【理解と実践】

世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。

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今日はダイナミック・ケイパビリティ理論についてまとめます。

ダイナミック・ケイパビリティ理論

現代の経営学で最も注目される視点のひとつ。しかしその定義は学術的に固まっていない。

ただダイナミック・ケイパビリティ理論は”企業の変化”を説明する理論であるため、変化の激しい現代において重要視されている。
ただ企業が変化をすることは難しいため、適切に変化するためには何が重要なのかが注目されている。

時代に合わせてうまく変化した企業の例

・ジョンソンコントロールズ社(米)
創業:19世紀後半
初期事業:建物用空調制御
事業遷移:建物用空調制御→自動車バッテリー・電力システム事業→自動車シートで世界最大の企業、エンジニアリングデザイン企業

東レ(日)
創業:大正時代
初期事業:戦後いち早くナイロン事業を手掛けた
現在:ヒートテックをユニクロと共同開発、炭素素材をボーイング787の一次構造材として提供などしているが、社名の由来であるレーヨン事業はもう手掛けていない

時代に合わせてうまく変化できなかった企業の例

・GE
創業:1892年
初期事業:総合電機メーカー
事業遷移:総合電機メーカー→巨大コングロマリット→金融・家電部門切り離しIoTへ資源集中投下
現状:株価の低迷が続き、アクティビストから事業分割のプレッシャーを受けている

変化を難しくしている背景:事業環境変化のスピード高まり
(参考)S&P500に組み込まれた企業の平均寿命
1935年:90年程度
2005年:15年程度
今後も短くなることが予想される

ハイパーコンペティション時代

現在多くの市場の競争の型がシュンペーター型(=ハイパーコンペティション(hypercompetition))に移りつつある。

今までの時代の競争の型はIO型・チェンバレン型であり、ある程度事業環境が安定しており、将来がそれなりに見通せる環境だった。
これらの環境下では「持続的な競争優位(sustained competitive advantage)」の獲得が重要だった。

そのためSCPやRBVが戦略立案に適していた。

しかし上述の通り、事業変化のスピードが格段に早くなっていることから、多くの市場の競争の型がシュンペーター型に移りつつある。

ハイパーコンペティション時代には「持続的な競争優位」という前提が成立しない。
企業に求められるのは「変化する力」であり、「一時的な競争優位(temporal advantage)」を連続して獲得することである。

一時的な競争優位を連続して獲得するために企業は「環境に合わせて変化する力」が必要であり、それを明らかにしようと試みているのが、ダイナミック・ケイパビリティである。

ダイナミック・ケイパビリティとは

ダイナミック・ケイパビリティは主に以下の2つの理論で成立している

  • RBV

ケイパビリティ:様々なリソースを組み合わせ直す(reconfigure)企業の能力

企業は技術・人材・ブランドなど様々なリソース(=経営資源)を持つが、リソースは「組み合わせる」ことで初めてビジネス成果に繋がる。
ケイパビリティはリソースを組み合わせ直す企業の能力であり、リソースの上位概念といえる。

現在の環境下で最も重要なことが、ダイナミック(動的)なことである。RBVは安定した環境下で有効だが、ハイパーコンペティション下の企業にとってはあまり有効ではない。

従ってRBVとダイナミック・ケイパビリティの違いは「環境の変化に対して、様々なリソースを組み合わせ直し続ける力が求められる」点である。

  • ルーティン

ルーティン:企業に慣習として埋め込まれた、繰り返しの行動プロセス

「ダイナミック・ケイパビリティ=企業が絶えずリソースを組み合わせ直すプロセス」であるため、それが組織内でルーティン化されることも重要である

そのためダイナミック・ケイパビリティをルーティンの発展系と考えるなら、「技術やブランドのようなリソースと異なり、安易に外部から手に入れられるものではない」ことがわかる。

以上の考えをまとめるとダイナミック・ケイパビリティは以下の通りとなる。

ダイナミック・ケイパビリティとは

急速に変化するビジネス環境の中で、変化に対応するために内外の様々なリソースを組み合わせ直し続ける、企業固有の能力・ルーティンの総称

ダイナミック・ケイパビリティを高めるために有効な2つの視点

ここからはダイナミック・ケイパビリティを高めるために重要な2つの視点「センシングとサイジング」「シンプル・ルール」を説明する。

センシングとサイジング

センシング(sensing):事業機会・脅威を感知する力

ダイナミック・ケイパビリティの想定では、企業は変化する環境下で事業機会・脅威を感知する必要がある。

そのため安定した環境下でのみ有効たりうるファイブ・フォース分析は、ハイパーコンペティション下では有効と言えない。

その代わり有効となるのが認知に限界のある組織がその認知の幅を広げる行動「サーチ」である。
行動範囲を広げてなるべく遠くの事業機会・脅威をサーチ(センシング)する必要があるのだ。

サイジング(seizing):センシングにより感知した事業機会・脅威を実際に「とらえる」こと。具体的には新たな事業機会に投資すること。

投資した新規事業が既存事業の顧客を奪ってしまう「共食い(cannibalization)」を企業が恐れがちで、結果として企業は「知の探索型の投資」を怠りガチになってサイジングができなくなってしまう。

つまりコンピテンシー・トラップに陥ってしまうのだが、企業が各種施策を用いて知の探索を促すことがダイナミック・ケイパビリティの形成に繋がる。

IBMの持つダイナミック・ケイパビリティ

IBMのセンシング施策

①マネジャークラスの戦略立案への巻き込み(ownership by general managers in the strategy making process)
以前の戦略部門は専門家が大半を占めていたが、それらの戦略専門家は実践経験に乏しかった。
ただ近年はIBMは戦略部門の人材の多くを実践豊富な事業部門のゼネラル・マネジャーが占めるようになった。
さらに1年半〜3年半のタームで彼らが入れ替わりながら参加することで、事業部のナマの情報が戦略部門に直接持ち込まれるようになった。
これにより、IBMが組織全体で事業機会を感知(センシング)できるようになった。

②ディープ・ダイブ(deep dive)
マネジャーと戦略部門の人々が共同で問題解決や戦略的意思決定をするプロセスである。
全ての議論がファクトベースであることが重要視され、一度始めたら具体的な問題解決の道筋が明確化されるまで、議論・分析を止められない。

③ウィニング・プレー(winning play)
CEOや上級役員に抜擢された社内のリーダー候補が部門横断型の解決に当たる。解決方法は②のディープ・ダイブが活用される

ディープ・ダイブやウィニング・プレーの活用により、各事業部門の前線で得られた事業機会の共有とセンシングがIBM全体でなされるようになる。

IBMのサイジング施策

①新興の事業機会(emerging business opportunities:EBO)
新事業実践のためのプログラム・施策の総称である。
具体的には「新しい事業は、既存のビジネスとは全く異なる取り組みが必要」という問題意識から、
新事業は既存ビジネスとは完全に独立した組織で行われ、独立したリーダーシップが取られ、独立した予算編成が取られる。

②戦略的リーダーシップフォーラム(strategic leadership forum:SLF)
3日間半かけて社内で行われる、リーダー育成のためのワークショップである。
一般に言う「オフサイトミーティング」とは異なり、実際の事業課題への落とし込みを前提とした真剣な議論が行われるのが特徴
このワークショップを通じて、IBMの共有言語や考え方を体得していく。

③コーポレート・インベストメント・ファンド(corporate investment fund)
EBOなどに振り分けられる約5億ドルのファンド
この資金の特徴は「IBMの年次予算編成に組み込まれない事業」に振り分けられること

ジェフ・ベゾスは「共食い」を推奨する

アマゾンではカニバリゼーションを推奨している。
例えばAWSビジネスでは小さな単位の組織が大量に作られ、なかには他組織と被った事業を行っていることも少ないない。

しかし創業者のジェフ・ベゾスは全く問題視せず「もっとカニバリゼーションを起こせ、アマゾンの既存事業を潰せ」といったメッセージを送っている。

シンプル・ルール

よりルーティンに基づいた側面を強調するのがシンプル・ルールの重要性である。

シンプル・ルールの骨子:変化が激しい環境下で企業がダイナミック・ケイパビリティを発揮するには、数を絞ったシンプルなルールだけを組織に(ルーティンのように)徹底させ、あとは状況に合わせて柔軟に意思決定すべき

「組織に埋め込まれた繰り返される行動パターン」であるルーティンは、蓄積されるほどに細かくなりがち。
そして細かいルーティンは組織の硬直化を呼ぶこともあるので、極端に環境の変化が激しい時には組織の変化の足かせとなることもある。

そのため「急激に変化する環境では、企業が意思決定のルールをあえてシンプルにすることで、ダイナミック・ケイパビリティを高められる」と考えるのである。

シンプル・ルールの例

インテル
状況:1980年代に日本の半導体メーカーが低価格戦略で世界市場を席巻し始めた
シンプル・ルール:メモリーの粗利率が下がってマイクロプロセッサーの粗利率が上昇するなら、マイクロプロセッサーを増産する
結果:シンプル・ルールを徹底させることで、効果的な資源配分を行うことに成功

-シスコ
M&Aで成長してきた代表的な企業
M&A路線に踏み切ったときのシンプル・ルール:買収先企業の従業員は多くても75人まで、うち75%はエンジニアでなければならない

変化が激しくなるこれからの世界において、シンプル・ルールはより重要になるのかもしれない

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