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【経営理論】カーネギー学派の企業行動理論(BTF)【理解と実践】

世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。

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今日はカーネギー学派の企業行動理論(BTF)についてまとめます。

カーネギー学派とは

企業行動理論、知の探索・知の進化の理論を総称してカーネギー学派(Carnegie School)と呼ぶ

企業行動理論(behavioral theory of firm:BTF):認知心理学をもとにしたマクロ心理学の理論の出発点

知の探索・知の進化の理論:現代イノベーション理論の核心

経済学への批判

カーネギー学派は「経済学は市場メカニズムや社会全体の厚生を重視するあまり企業・組織の現実の意思決定メカニズムを軽視してきた」と主張している

経済学における一般的な企業の意思決定の前提と仮定

カーネギー学派の批判を理解するためにも、まずは経済学における一般的な企業の意思決定の前提と仮定について理解する必要がある。

・暗黙の前提

1)認知の無限性(unlimited cognition)

古典的な経済学では、意思決定者は認知に限界がないと暗黙に仮定されている。

例えば意思決定者は企業が取りうる戦略的な選択肢を無限に見出し、それぞれの選択肢を取った際の顧客・ライバル企業の反応なども事前に十分見通せる。

2)最大化(profit maximization)

意思決定者は多くの選択肢から自社の便益(一般には利益)を最大化するものを事前に1つに絞り込める

3)プロセスを重視しない

意思決定者は最適な選択肢を事前に瞬時に見つけられるので、「時間をかけてより望ましい選択肢を徐々に見つけていく」というプロセスは重視されない

・仮定

1)合理性(rationality)

3つの暗黙の前提の上で、企業(あるいは企業の運営者)は合理的に意思決定されると仮定されている。

例えばゲーム理論ではペイオフマトリクス上で自社・他社がある選択肢を取った際の結果が事前にすべて分かっている。意思決定者はその中から最適な選択肢を瞬時に選ぶことができると暗黙に考えているのだ。

カーネギー学派は厳しいビジネスの現場ではこの様な意思決定・情報処理はできるのだろうかという疑問から始まっている

サイモンの限定された合理性

カーネギー学派を特徴づける最重要の前提:限定された合理性(bounded rationality) 人は合理的に意思決定するが、その認知力・情報処理力には限界があるというもの

カーネギー学派では行動の結果として新しいことを知った人は認知の範囲を少し広げるので、それを頼りにまた行動範囲を広げ、またさらに認知の範囲を広げていく、と捉える

特徴的な意思決定の特性4つ

1)合理性(rationality):カーネギー学派も人の合理性を仮定するのは経済学と変わらない。「与えられた条件下で自身にとって最適な選択肢を求める」と考える

2)認知の限界性(limited cognition):人・組織の認知には限界があるので、意思決定者は自身が本来取りうる選択肢を事前にすべて知り得ない。その選択肢を取った結果がどうなるかも十分に見通せない。意思決定者は限られた認知の中で選択をして行動に移すと考える。

3)サティスファイシング(satisficing):認知に限界のある人ができる合理的な意思決定とは、「現時点で認知できる選択肢の中から、とりあえず満足できるものを選んでおく」ことだ。限定された合理性を持つ人・組織が実際にできることは「最大化ではなく、サティスファイシング」と考える

4)プロセスの重視:カーネギー学派で想定される人・組織の意思決定は「限られた選択肢」→「現時点でのとりあえず満足できる選択」→「実際の行動」→「行動することで認知が広がり、新しい選択肢が見える」→「より満足な選択」という一連のプロセスとなる

ホンダはアメリカ市場での勝ち方を事前に知っていたのか?

1960年代のホンダ:アメリカのオートバイ市場に参入し、50ccの小型バイクで爆発的な売上を達成しアメリカ市場全体の63%のシェアを獲得した。

この際にボストンコンサルティングファーム(BCG)はホンダの成功を分析し、以下の様な結論を出した

ホンダは日本で大量生産を行なってスケールメリットを実現し、コストリーターシップ戦略を追求し、アメリカの中産階級に低価格の小型オートバイ区という新しい市場セグメントを提供した

この分析結果だとホンダは事前に緻密に練ったコストリーダーシップ戦略を計画的に実行したようだが、実際には全くそんなことがなかった

実際のホンダの計画

ホンダは当初小型バイク販売を全く考えていなかったがアメリカ市場に進出したからこそ、新たな選択肢に気づき大ヒットを産むことに成功した

当初のホンダの狙い:アメリカ市場で普及していた250cc 350ccの大型バイクセグメント

ホンダ幹部の認識:アメリカで50ccの小型バイクが売れるはずない

アメリカ市場参入後の問題:アメリカ人が乗ると長距離・高スピード走行に耐えきれず、ホンダの大型バイクの壊れる事件が頻発

現地市場での気づき:ロサンゼルス支社のスタッフが営業などで社外に出ると、日本から持ってきた50cc小型バイクを現地の人が乗り回しているを目にした

満足な選択:小型バイクの可能性に着目し、自社でも小型バイクを発売した結果、予想をはるかに超えて中産階級に受けて大ヒットした

BCGの分析とホンダ経営幹部の意思決定プロセスは対照的であり、実際のホンダの経営幹部の意思決定・行動プロセスはカーネギー学派の意思決定プロセスの方が近い

サーチとアスピレーション

組織意思決定の循環プロセスモデルにおいて、特に重要な概念は次の2つ

  • サーチ(search)

もともと認知が限られている組織(の意思決定者)が自身の認知の範囲を広げ、新たな選択肢を探す行動

満足度が低ければもっと自分をサティスファイ(満足)させてくれる選択肢を求めるのが合理的
ただし、組織は認知力に限界があるのでローカル・サーチしがちになる。この傾向を乗り越えてより遠くの選択肢をサーチすることが、イノベーションにとって重要になる。

local search

自身が直面している認知の周辺でサーチしがちになること

  • アスピレーション(aspiration)

カーネギー学派の重要な概念。直感的に言えば「自社の将来の目標水準」のこと

人間・組織は認知に限界があるから、利益率・成長率などの業績を評価する際は何らかの基準を作って「良かった」「悪かった」と単純化する傾向がある。そのため事前にアスピレーション(目標・目線)を立て、それを「超えられたか」「否か」が基準になりがち。

人・組織は合理的であるがゆえに慢心する

組織意思決定の循環プロセス

組織意思決定の循環プロセスのポイント
・組織は満足度が低いほどサーチをする傾向がある。
・満足度が高まれば企業はサーチをしなくなる
・組織が合理的だからこそ、サーチが停滞する
「うまくいっている時こそ、さらに目線を高くせよ」

上の図は組織意思決定の流れを表している。図を左半分・右半分に分けると理解しやすい。

左半分

①の矢印:組織がサーチ行動を取れば、認知が広がって選択肢が増えるので、やがて業績も高まると期待される
②の矢印:業績が高くなれば、それは企業のサティスファクション(満足度)を高める
③の矢印:サティスファクションが高まれば企業はサーチをしなくなる

サーチ行動はコスト・時間・認知的負担がかかるので、企業は現状に満足するほど「これ以上サーチは行わない方が合理的」と考えてしまう。

右半分

④の矢印:業績期待が高い組織はアスピレーションが高くなる可能性がある
⑤の矢印:アスピレーションが高いと自社の現実が追いつかなくなるので、現時点での相対的な満足度はむしろ下がる
③の矢印:満足度が下がると組織はさらなるサーチをするようになる
①の矢印:業績向上に繋がる

右半分の循環のポイント:企業にとって重要なのは常にそのアスピレーション(目線)を高く保てるか

「成功体験の怖さ」「目線をあげる重要性」を説く有名経営者の言葉

BTFは多くの経営者の教訓と合致する。

セブン&アイ・ホールディングス会長 鈴木敏文氏

成功体験が失敗のもとになる。成功はその時にうまくいっているということであり、時代が変われば同じ手法ではダメということ。

ヤマト運輸 中興の祖 小倉昌男氏

経営者の過去の成功体験が、時代が変わって新しい仕事を始めるときに大きな妨げになる。

サントリーホールディングス 新浪剛史氏

佐治氏が持っている夢はでかい。その期待に応えられるか、大きな夢を実現できるか緊張している。ただ目線をあげないと企業成長できない。

サイバーエージェント 藤田晋氏

三木谷さんや堀江さん、熊谷さんたちと昔から親しくさせていただいていますが、皆、当時から目線や意識が高かった。そういう方々と付き合っていると、早い話、「自分はまだまだ」と感じ、満足した気分にさせてもらえないのです。

パフォーマンス・フィードバック(performance feedback)

上述までの内容が企業行動理論(behavioral theory of firm:BTF)の基礎となる。

先の循環プロセスを派生させたもののパフォーマンス・フェードバックが有名だ。
パフォーマンス・フィードバックとは「企業のこれまでのパフォーマンス・業績が、心理的なメカニズムを通じて、その後の企業行動に影響する」という命題のこと

経営学ではこの命題の以下の4点が研究されている。

①アスピレーションと現実のギャップ(gap to aspiration)

企業にとって重要なのは「足元の業績とアスピレーションのギャップ」であることを変数化して取り入れること

②問題解決型サーチ(problematic search)

「自社業績がアスピレーション水準に達しないほど、企業は積極的にサーチ活動を行う」という、先にも述べたメカニズムをまとめた命題

多くの実証研究で足元の業績がアスピレーション・レベルと比べて低い企業ほど、R&D投資を積極的に行う傾向が示されている

③企業の余裕スラック(slack)

業績が好調な企業は資金など経営資源に余裕(スラック)が出てくるので、サーチ行動を積極的に行うようになる。

この命題で興味深いのは、循環のプロセスの主張と真逆になっていること。

業績がサーチに与える影響には「減退」「活性化」の真逆の2つがある。減退は「慢心の効果」であり、活性化は「余裕の効果」になる。

言い換えれば好業績の時ほど余裕を持ちつつも、(慢心を抑えて)危機感を強めよということ。
京セラ・KDDIの稲盛和夫氏、トヨタ自動車の豊田章男氏も以下のように述べている。

余裕がある段階においても、危機感を持ち必要な行動を起こすことが大切です。これが安定した事業の秘訣です。

稲盛和夫

生きるか死ぬかの戦いで、トヨタが死ぬのは「社内に大丈夫」という意識が蔓延した時だ。

豊田章男

BTFの示唆は、修羅場をくぐってきた経営者たちと通ずる点がある。

④リスク行動(risk-taking behavior)

「足元の業績がアスピレーション水準に到達しない企業ほど、心理的な焦りからリスクの高い行動を取りがちになる」という命題

業績がアスピレーション水準に届かない企業ほど、高いM&Aプレミアムを払ってでも企業買収を推し進める傾向が明らかになっている

組織の標準化された手続き(standard operating procedure)

認知に限界のある企業がサーチを繰り返すと、その認知的な負担は大きくなる。

そのため企業は認知負担を減らすために、内部で「当然とされるルール・標準的な手続き・習慣」を形成するようになる。

この視点は「ルーティン」「ダイナミック・ケイパビリティ」にも影響している。

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